大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 平成8年(行ウ)8号 判決 1998年3月24日

原告

小川賢

右訴訟代理人弁護士

嶋田久夫

髙田新太郎

高坂隆信

市川守弘

太田賢二

虻川高範

佐藤欣哉

高橋敬一

高橋健

外塚功

三浦元

脇山淑子

鵜川隆明

荒木貢

安田純治

大沢理尋

杉原信二

田見高秀

樋口和彦

富岡規雄

谷萩陽一

佐藤大志

中山福二

南雲和彦

青木高明

佐々木新一

清水勉

土橋実

児玉晃一

佃克彦

谷合周三

堀敏明

新海聡

西野昭雄

味岡申宰

山田秀樹

阪本康文

高橋敬幸

仁比聡平

一柳俊文

被告(被補助参加人)

群馬県知事

小寺弘之

右訴訟代理人弁護士

阿久澤浩

右訴訟復代理人弁護士

丸山和貴

右訴訟指定代理人

丸岡甚一郎

外二名

右補助参加人

日刊スポーツ事業株式会社

右代表者代表取締役

中島清成

右訴訟代理人弁護士

岡伸浩

竹川哲雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告が原告に対し平成七年一月九日付けでした公文書非開示決定処分を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、被告に対し、群馬県公文書の開示等に関する条例(昭和六一年四月一日群馬県条例第一六号、以下「本件条例」という。)に基づき、(仮称)日刊スポーツゴルフ倶楽部に係る環境影響評価書(以下「本件文書」という。)の開示(写しの交付)を請求したところ、被告が本件文書の閲覧のみを認め、写しの交付をしない処分をしたので、原告が右処分は非開示の処分であり、違法であると主張して、その取消しを求めた抗告訴訟である。

二  争いがない事実

1  原告は、群馬県内に住所を有する者(本件条例五条一項一号)であるから、実施機関に対し公文書の開示の請求をすることができる(同項柱書)。

被告は、実施機関である(本件条例三条三号)。

2  補助参加人は、群馬県環境影響評価要綱(平成三年四月一日群馬県告示三五二号、以下「本件要綱」という。)二条に基づいて本件文書を作成し、被告に送付した。

3  本件文書は、群馬県の機関が職務上受領し、供覧を終えたものであり、実施機関である被告が管理しているものであるから、公文書である(本件条例三条一項柱書、同項二号)。

4  原告は、被告に対し、本件条例七条、三条二項に基づいて、平成六年一二月一九日付けで、本件文書の写しの交付を求める開示請求(以下「本件開示請求」という。)をした。

5  被告は、本件開示請求に対し、「参考」欄に「開示請求された公文書の写しの交付については、著作権者の許諾なしに交付することはできません。したがって、閲覧のみの開示になります。」と記載した平成七年一月九日付「公文書開示決定通知書」(甲第三号証)を原告に送付して、本件文書の閲覧のみを認め、写しの交付をしない処分(以下「本件処分」という。)をした。

6  原告は、平成七年一月一八日、本件処分について異議申立てをしたが、被告は、本件文書の複製について著作権者である補助参加人の許諾がないから、法令又は条例の規定により開示することができない(本件条例六条一項一号)として、平成八年三月一三日付けで、これを棄却した。

7  本件文書は、①事業者の名称及び所在地、②対象事業の目的及び内容、③調査の結果の概要、④対象事業の実施による影響の内容及び程度並びに環境の保全のための措置、⑤対象事業の実施による影響の評価、⑥関係住民の意見の概要、⑦知事の意見、⑧関係住民及び知事の意見についての事業者の見解等(本件要綱一二条一項)を記載した文書であり、著作物(著作権法二条一項一号)であって、補助参加人は著作権者としてその複製権(同法二一条)を有している。

第三  争点

一  争点一は、被告の本件処分が非開示の処分であるか否かであり、これに関する当事者の主張は次のとおりである。

1  原告の主張

本件条例三条二項が「この条例において『公文書の開示』とは、公文書を閲覧に供し、又は公文書の写しを交付することをいう。」と定めていることなどからすると、請求者は、その選択に基づいて、公文書の閲覧を請求し、写しの交付を請求し、又は閲覧及び写しの交付を請求することができる。そして、公文書の写しの交付を求める請求に対し、実施機関が写しの交付を認めない処分をした場合、これが非開示の処分となるのは当然であり、その場合に実施機関が閲覧を認めても開示したことにならない。

本件についても、原告が本件文書の写しの交付を求めて開示請求をしたにもかかわらず、被告は、その写しの交付を認めず、その閲覧だけを認めたのであるから、被告の本件処分が非開示の処分に当たることは明らかである。

2  被告の主張

本件条例に基づく開示請求として、請求者が写しの交付のみを求めている場合に、実施機関において、写しの交付は認めないが、閲覧についてはこれを認め、その限りで開示するという処分をすることは、本件条例上、予定されているものである。本件処分は、この場合であり、本件文書の閲覧を認めたから、これを開示したことになる。

したがって、本件処分は、非開示処分ではない。

3  補助参加人の主張

開示請求に対して開示するか否か、開示するとした場合にその方法を閲覧とするか写しの交付とするかは、いずれも実施機関が決定するところであり、実施機関である被告の本件処分は本件文書の閲覧を認めてこれを開示したから、本件処分は非開示処分ではない。

二  争点二は、本件開示請求(写しの交付の請求)の対象となっている本件文書に本件条例六条一項一号に該当する情報が記録されているか否かである。本件条例六条一項は、「実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の開示をしないことができる。」と定め、その一号は、「法令又は条例の規定により開示することができない情報」と定めている。

これに関する当事者の主張は、次のとおりである。

1  被告の主張

著作権法は、著作者に複製権を専有させ(同法二一条)、例外的にそれが制限されて複製が許される場合を個別、具体的に規定している(同法三〇条以下)が、本件文書の写し(複製)の交付を求めた本件開示請求はそのいずれの場合にも該当しない。そこで、被告は、補助参加人に対し、本件文書の複写の許諾を求めたが、補助参加人は、平成七年一月九日、複製権に基づき、これを拒否した。

以上によれば、補助参加人が複製権を専有する著作物である本件文書は、本件条例六条一項一号所定の法令の規定により開示(写し交付)をすることができない情報が記録されているものである。

2  補助参加人の主張

補助参加人は、著作権法二一条に基づいて、複製権を専有しているが、本件条例に基づく開示請求は、同法三〇条ないし四七条の二に規定されている各複製権に対する制限規定のいずれの場合にも該当しない。原告が主張する公益性という不明確な概念で、複製権に対する例外的な制限を認めることはできない。

補助参加人の著作権(複製権)は著作権法に基づいて保護されるから、本件文書は、本件条例六条一項一号に該当する情報が記録されている。

3  原告の主張

(一) 本件条例は、憲法二一条一項及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権規約」という。)一九条二項によって保障された基本的人権である「知る権利」を情報開示請求権として具体化したものである。したがって、本件条例により具体化された情報開示請求権は、憲法及び国際人権規約上の保障を受け、この権利を制限する本件条例六条各号の解釈にあたっては、非開示となる情報が必要最小限になるよう厳格に解釈すべきである。

一方、複製権は、財産的権利であり、しかも、著作権法上、制限規定を設けられている(同法三〇条以下)ように、絶対的な権利ではなく、当該複製の目的に公益性がある場合には制限されるところ、条例に基づく情報開示請求も公益性がある場合であるから、その複製は許されるべきであり、このことは著作権法が予定しているものである。

しかも、本件文書は、既に公表されているものであり、その写しを交付しても補助参加人に財産上の不利益を与えるものではない。

以上によれば、本件開示請求に対して、被告は写しを交付すべきであり、補助参加人の著作権(複製権)の主張は権利の濫用である。

(二) 被告は、本件開示請求に対して閲覧を認めたが、被告が決定し得るのは、開示するか否かのみであるから、閲覧を認めた以上、写しの交付を拒否する理由はない。

(三) 以上によれば、補助参加人が本件文書について著作権(複製権)を有していても、本件文書に、本件条例六条一項一号所定の開示(写し交付)をすることができない情報が記録されているとはいえない。

三  争点三は、本訴請求が開示請求権の濫用であるか否かであり、これに関する当事者の主張は次のとおりである。

1  被告の主張

補助参加人は、本件要綱一三条に従い、本件文書を平成六年一一月二八日から同年一二月二七日までの間、原告を含む関係地域住民の縦覧に供し、かつ原告の要請を受けた被告からの指導に従って縦覧場所の追加、縦覧時間の延長等の措置を講ずる等した。また、補助参加人は、原告に対し、縦覧期間終了後も、毎土曜日に補助参加人安中事務所において、閲覧させ、必要な説明に応ずる等特別の便宜を図る旨原告に通知した。更に、本件開示請求に対しても、被告は写しの交付は拒否したが、閲覧は認めたものである。

以上のとおり、原告には本件文書の内容を知るための十分な機会があったから、本訴請求は開示請求権の濫用である。

2  補助参加人の主張

右1のとおり、補助参加人及び被告は原告が本件文書を縦覧するため最大限の配慮を行ったから、本訴請求は開示請求権の濫用である。

3  原告の主張

本件文書は、二分冊合計一一一二頁に上り、かつ、数々の専門用語が使用されているばかりではなく、各種の数値データや科学的、工学的分析結果の記述やグラフ、図表なども数多く記載されており、複雑な内容となっている。そのため閲覧するだけでその内容を正確に把握することは困難である。しかし、原告ら地域住民が、本件文書の内容が正確なものか否か、実施に移される事業が環境保全を配慮して行われているか否か等をチェックするためには、本件文書の内容を正確に把握する必要がある。そこで、原告は本件文書の写しの交付を求めたのである。

原告に写しを交付しても、補助参加人に具体的不利益が生じるとは考えられない。

よって、本訴請求は、開示請求権の濫用ではない。

四  争点四は、本件条例六条一項三号本文に該当する情報が本件文書に記録されているとして、右情報を本件処分の非開示理由として追加することが許されるか否か及び右情報の存否である。本件条例六条一項三号本文は、「法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報で、開示することにより当該法人等又は当該個人の競争上若しくは事業運営上に不利益を与え、又は社会的信用を損うと認められるもの。」と定めている。

これに関する当事者の主張は、次のとおりである。

1  補助参加人の主張

本件文書の写しが交付されると、それが同業他社やゴルフ開発に関する関連業界に流布し、分析され、その結果、本件事業のコストが精密に積算され、その総事業費が容易に推定される。しかし、総工事費に対して各必要費をいかに分担し、削減するか、そしてこれらを最終的な会員権販売の価格をいかに反映させるかは、企業のノウハウに属するものである。これら各事業費や総事業費が積算された場合に補助参加人の被る不利益は、一定期間、対象者を一定範囲に限定する閲覧では発生しないが、写しを交付した場合は生じ得るものである。

以上によれば、本件文書には本件条例六条一項三号本文に該当する情報が記録されている。

2  原告の主張

(一) 本件開示請求について、被告が原告に送付した平成七年一月九日付「公文書開示決定通知書」(甲第三号証)の「参考」欄の記載からすると、本件処分の理由は、本件文書に本条例六条一項一号の情報が記録されているということだけであった。行政処分と処分理由は一体の関係にあり、また、理由の追加を許すと理由を付記させる意義が没却されてしまう。

したがって、本件条例六条一項三号の情報があるとしてこれを本件処分の理由として追加することは許されない。

(二) 更には、もともと本件条例六条一項三号本文に該当するような情報は本件文書に記録されていない。

第四  当裁判所の判断

一  争点一について

本件条例が三条二項で「この条例において『公文書の開示』とは、公文書を閲覧に供し、又は公文書の写しを交付することをいう。」と定め、六条一項柱書で「実施機関は、次の各条のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の開示をしないことができる。」と定めていることなどからすると、本件条例においては、公文書の開示請求として、閲覧だけを請求し、又は、閲覧及び写しの交付を請求することができる外に、写しの交付だけを請求することもできるものと解される。被告が用意している書式である「公文書開示請求書」(甲第二号証)の「※開示の区分」の欄に「1 閲覧」と「2 写しの交付」の区分があり、欄外の「注1」で「※印の欄は、該当する番号を○で囲んでください。」と説明していることも右各請求ができることを前提としているものと認められる。

これを原告の本件開示請求についてみると、原告は本件文書の写しの交付による開示を請求したのであるから、実施機関である被告としては、その写しの交付による開示請求を認めるか否かの処分をすべきところ、本件処分において写しの交付を認めなかったのであるから、被告の本件処分は本件開示請求に対する関係で非開示の処分であったことになる。被告が本件処分において閲覧を認めたから、これを開示処分であるということはできない。

二  争点二について

1  原告は、本件開示請求により、被告に対し、本件文書の写しの交付による開示を請求したものである。

ところで、本件文書が著作物(著作権法二条一項一号)であり、補助参加人が著作権者としてその複製権(同法二一条)を有していることは当事者間に争いがないから、それを前提として判断することになる。

そうすると、本件文書が既に縦覧によって公表されたか否とを問わず、それを複写して写しを作成することは著作権法上の複製となるものといわざるを得ない。被告が平成七年一月九日付書面で補助参加人に対し本件文書の複写の許諾を求め、これに対し、補助参加人は、平成七年一月九日付書面で、著作権法に基づく権利によりこれを断る旨回答した(乙第一号証、第二号証の一)が、右回答を含む補助参加人の著作権(複製権)の主張に権利の濫用があったことを認めることはできない。したがって、本件文書について著作権(複製権)や複製の権限を保有していない被告が、著作権者である補助参加人に無断でその複製(複写)をし、その写しを公文書開示の一環として原告に提供することは補助参加人の排他的権利である複製権を侵害し、同法に違反することになる。

そして、地方公共団体は法律の範囲内でしか条例を制定することができないのであり、本件条例六条一項一号の規定もこの趣旨を明らかにしたものと解されるから、著作権法で規定されている著作権の内容を条例によって制限することはできず、本件文書が著作物に該る以上、被告が本件条例に基づいて、補助参加人の意思に反して写しを交付することは許されないと解さざるを得ない。

よって、本件文書の写しの交付を求める本件開示請求については、本件文書は、「法令」(本件条例六条一項一号)たる著作権法により開示することができない情報を記録している公文書であるから、被告は、同条一項柱書によって写しの交付による開示をしないことができるものである。

2  なお、情報開示請求権が一般的に憲法二一条、国際人権規約一九条二項と関連性を有することは否定し得ないが、更に進んで、直接、憲法及び国際人権規約の保障を受ける権利となると解することはできないから、本件条例に基づく開示請求権をもって、著作権法上の著作権(複製権)に優越する権利であると解することはできない。

また、原告は、被告が本件文書の閲覧を認めた以上、写しの交付を拒否する理由はないと主張するが、前記1の説示から明らかなように、複製権(著作権法二一条)と関連する写し交付の請求を閲覧の請求と同列に論じることはできないから、右主張は採用することができない。

三  以上によれば、本件文書の写しの交付を求めた請求に対し、本件文書には本件条例六条一項一号の開示適用除外情報が記録されているとしてその写しの交付を認めなかった本件処分に違法はないから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官村田達生 裁判官中野智明 裁判官上野正雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例